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疲労について(後編)
2020.11.12
未指定皆様こんにちは。
本日は「疲労について(後編)」というテーマで、東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授 近藤一博先生によるお話をします。
図4のとおり体内には「eIF2α」をリン酸化する酵素の他、リン酸化した「eIF2α」を脱リン酸化する酵素も持ち合わせていて、疲労の発生に関わるリン酸化した「eIF2α」の脱リン酸化が疲労予防になるということになります。
マウスに「eIF2α」の脱リン酸化酵素阻害剤を投与すると強制水泳をさせた時の移動距離と運動時間がさらに低下し炎症性サイトカインの産生が上昇することから、脱リン酸化により疲労が軽減されることを示しています。
同講座ではリン酸化した「eIF2α」に対する「eIF2α」の割合を示す「疲労回復指数」を用いた疲労回復効果のある食品についての研究を進めています。
「疲労回復指数」が大きい程、疲労回復効果が望める食品ということになるようです。
また適度な運動負荷は疲労回復力を高める反面、疲労の原因にもなりますので適正な負荷には個人差もあるため、血液検査にて各人に適正な運動負荷を見つける方法を開発したことで、同大学内で各人に適した運動プログラムに沿った運動療法ができるトレーニングジムを開設するそうです。
これまで疲労研究が遅れたのは、疲労とストレスが明確に区別されてなかったことが要因だそうです。
その違いは図7のとおり生理的疲労による疲労感は体に「休め」というシグナルを出す一方で、ストレス応答は「視床下部」「下垂体」「副腎系」を介してコルチゾールとアドレナリンを産生させ、体に「頑張れ」というシグナルを出すというのもので、コルチゾール自体、炎症性サイトカインの産生を抑える作用があることから疲労とストレスは目的も全く逆の関係にあります。
また、ストレス応答には、前編でお話したコーヒー、エナジードリンク、栄養ドリンクに含まれる抗酸化物質と同じような危険性がありますが、図8のとおり通常、両者はバランスがとれていてオーバーワーク状態になると、どちらのシグナルも大きくなります。
ただし、視床下部や副腎はストレッサーに弱く「頑張れ」のシグナルは小さくなってきますが、「休め」のシグナルは肝臓の働きで段々と大きくなるため、疲労感が前面に現れるようになるので、調子が良くて疲れない状態は長続きしないということになります。
疲労の分子メカニズムが明らかになってきたことで、同講座では「うつ病」との関係、「うつ病」の回避する方法などの研究などの研究にも取り組んでいるそうです。
「うつ病」は厚生労働省で5代疾病の一つに挙げていますし、世界保健機構(WHO)では2030年に「健康な生活に影響を及ぼす疾病」の第一位と予測しています。
精神科医の先生によると「うつ病」の患者さんの初診時の診察での第一声は「疲れました。」だということだそうですので、疲労感が主訴である患者さんの中に「うつ病」の患者さんが含まれているということを意味しています。
検査によってなかなか疲労感が抜けない状況で、内科的疾患や癌による疲労の可能性がないということであれば、
「うつ病」の可能性も考慮する必要があることになります。
同講座では、たとえオーバーワークで倒れたとしても「うつ病」にならない現実的な対策法つまり、肉体的疲労だけに抑えて短期間の休息で済ませられる方法、休みたくても休めない人が実践しやすい方法を模索中だそうです。
近年、世界でも疲労の重要性が認識されるようになってきており、疲労の研究が進めば、炎症と疾患の関係など、分からなかったメカニズムも解明される日が来るかもしれないということで、研究を日々行っているそうです。
今回は前編・後編に分けて「疲労について」のお話をしました。
ヘルペスウイルス量と生理的疲労の間に関連性があるという近藤先生のお話は大変興味深い内容でした。