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近視がもたらす重大疾患について(後編)

2021.04.12

未指定
皆様こんにちは。
前回に引き続き「近視がもたらす重大疾患について(後編)」というテーマで、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野教授 大野京子先生のお話をします。

小児の近視の治療は多様化しているようですが、とりわけ低濃度アトロピンによる点眼が画期的な治療法としては画期的なのだそうです。
小児の近視進行の抑制効果におけるアトロピンの作用機序は不明だそうですが、以前から小児の近視の進行抑制として「濃度1%アトロピン点眼薬」が有効な治療法であることは分かっていたようです。
しかし「濃度1%アトロピン点眼薬」は「散瞳」「調節麻痺」などの副作用が強いことも指摘されていたようです。
そんな中、シンガポールの研究グループにより「濃度0.01%アトロピン点眼薬」を1日1回使用したところ、副作用がなく、近視の進行抑制に対して持続的な効果があるという発表がありました。
また、LAMPスタディ(Low-Concentration Atropine for Myopia Progression Study;近視進行に対する低濃度アトロピン効果の研究)によれば、濃度0.01~0.05%アトロピンにおいても有効性があることが証明されました。
これにより、今まで眼鏡を着用し経過を見ることしかできなかった小児の近視に対して、積極的に進行抑制すべき疾患の対象となったことを意味しています。
さらに、元々、成人の視力矯正法であるオルソケラトロジー(オルソK)も小児近視進行抑制効果が副次的効果なる治療法として注目されているようです。
オルソKは、特殊な形状のハードコンタクトレンズを就寝時に装着するというもので、日中は変わらない日常生活を送れる上、保護者の着脱の管理がしやすいという点でも注目されている治療法で、一時的に角膜の形状を平らにし焦点を後方にずらすことで、矯正具なしで日中の良好な裸眼眼力の獲得を図るというものだそうです。
眼鏡やコンタクトレンズと比較して、長期でも30%の進行抑制効果が得られるという研究結果があり、東京医科歯科大学附属病院でも導入しているそうです。
近視の進行抑制効果は長期的な経過観察で分かりますが、日中の裸眼視力の改善については、日々実感できるので、続ける意欲が高まるようです。
「病的近視」によつ眼の変形が目立つようになるのは50代以降と言われているようですが、大野先生の研究グループでは成人以降に「病的近視」により失明した患者さんには、小児期に通常の学童近視とは異なる特徴的な眼底所見があるとしています。
AMED(日本医療研究開発機構)の支援の下、病的近視を対象とした「胸膜コラーゲン光架橋」という治療法を製薬会社などと研究開発を進めているようです。
その治療法はコラーゲンからなる強膜を硬くし、眼球長の伸展や眼球後部の変形抑制を図るというもので、小児のうちに「病的近視」の兆候を発見し、将来的には近視の進行抑制に期待されているようです。
近視の治療目的についてですが、子供の場合、進行抑制であるのに対して、成人の場合、視力矯正になるそうです。
将来、レーシックやオルソKに代わって、「眼内コンタクトレンズ(ICL)」を虹彩の裏側(後房)に移植するというもので、角膜を削らず、不具合が生じた際、レンズを取り出せるという可逆的な治療法だそうです。
この手術はICL認定医と呼ばれる医師が行うというもので、今後、主流になりつつあるようです。
成人の近視は緩やかにの進行するにもかかわらず、進行が早い場合、「白内障」が疑われるようで、
近視の人は白内障の発症が早いことから、50代以上の近視治療では白内障手術を同時に行うという選択肢もあるそうで、適切な度数のレンズを移植することで、視力の矯正が可能となります。
また、同大学附属病院の強度近視の外来患者さんの約1/3が、「見えにくいこと」に加えて、「将来見えなくなること」に対する不安が要因することで、「うつ病」や「不安障害」の診断基準に該当しており、「見えるようになった」ことで「うつ病」が軽快したケースもあるようで、このことから「見えること」と「精神状態」や「認知機能」とは密接に関係があることを示しています。
また「うつ病」や「認知機能の低下」がみられた「白内障」の患者さんが、術後にQOLが改善したという報告もあるようです。
なお、近視の発症、進行にはライフスタイルが大きく影響しているようですが、個人個人のライフスタイルを調べるにあたり、アンケート調査では客観的、定量的な情報収集が困難であると考えられていましたが、図5のとおり、近くを見ている時の距離など近視に影響する環境的要因について詳細に計測できる「クラウクリップ」という小型デバイスを眼鏡に装着する方法が発明されました。
測定データはアプリで保護者や医師のスマホに転送されるシステムで、客観的なデータに基づいて、患者さん一人一人に目標に達してない箇所を改善するように適切なライフスタイルの指導を行えるようになりました。
しかしながら、欠点は眼鏡装着者のみに限定されるため、新たなデバイスの開発の発明に期待されているようです。
また、図6のとおり野外活動も治療の一環として推奨されていて、明るさ1000ルクス以上の光を週11時間以上浴びている子供は近視になりにくいという調査結果が出ていて、これを元に台湾では1日2時間、日陰程度の明るさである1000ルクスの光を浴びる野外活動の時間を確保しており、世界で初めて子供の近視の頻度を減らすことに成功しています。
台湾の他、中国、シンガポールなどでは国を挙げて子供の近視対策に取り組んでいて、オーストラリアでは野外で昼食を取るのが規則だそうです。
ちなみに、わが国ではそのような対応が遅れており、2時間の野外活動を確保するためには、体育の授業に限らず校庭での植物観察、写生など学校生活の中で野外に出る工夫が必要なのだそうです。
また、近視が強い人は目の組織が弱いため、目を押さえたり、こすったり、ぎゅっとつぶるなどの動作により、眼圧が上昇しやすく、視神経を圧迫して眼底出血を起こす可能性があるので気を付ける必要があるそうです。
また、両目で物を見ていると、片方の目の網膜の全剥離などの目の異変に気付きにくいというケースもあるので、毎月1回、左右片方ずつ、カレンダーなど同じ被写体を見て、見え方のセルフチェックすることが大事なようです。
「人が得る情報の80%が目から」と言われているように、目の健康については、他科の先生との連携の必要性も大事になるようです。

本日は近視という身近な疾患について大野先生の大変興味深い、大変勉強になるお話でした。
近視を放置しておくと重大な眼疾患につながるということでしたが、今まで眼鏡を着用し経過を見ることしかできなかった小児の近視については、積極的に進行抑制すべき疾患の対象となったということでした。
これは眼科医療が日進月歩で進んでいることを意味しており、これからも大いに期待されるところです。
近視がもたらす重大疾患について(後編)
近視がもたらす重大疾患について(後編)
近視がもたらす重大疾患について(後編)