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最新がん放射線治療について(後編)
2022.07.13
未指定皆様こんにちは。
本日は「最新がん放射線治療について(後編)」というテーマで前編に引き続き、東京大学医学部付属病院放射線治療部門長 中川恵一先生のお話をします。
頭蓋内の小病変に対して行う定位放射線治療(STI:Stereotactic irradiation)は、正確な位置精度を維持しながら多方面からピンポイントで大線量の照射が可能だそうです。
これを体幹部に応用したのが体幹部定位放射線治療(SBRT:Stereotactic body radiotherapy)ですが、呼吸性移動のある肺がんのような場合は位置の固定ができないため、リアルタイムに動きを追いかける追尾照射を行います。
この体幹部定位放射線治療(SBRT)は、2020年4月より5個以上の少数転移(オリゴ転移)に対して保険適用となりました。
図6は肺がんのオリゴ転移の治療例を示しており「転移がんは薬物療法」という図式ではないことを示しています。
また、画像誘導放射線治療(IGRT:Image-guided radiotherapy)は治療体位で得られたCT画像を基に治療位置の誤差を補正しながら正確に照射する技術で、近い将来、位置合わせのための画像は現在のCT主体から、将来、MRIへと移行すると言われています。
そのMRIガイドIGRT装置は、世界中で導入の動きが見られるようですが、日本ではまだまだ少ないのが現状だそうです。
この装置の特徴は照射中もMRIを撮影し続けるリアルトラッキングが可能で、照射位置に病変部が入った時だけ照射され、逸れた時は照射されないという特徴があるため、多くのがんに利用可能ですが、特に難治性のがんの代表である膵臓がんの治療にも期待されています。
膵臓は十二指腸など多くの臓器に囲まれており、ビームのオン・オフの自動制御は非常に有用性が高いと考えられます。
手術が不可能な膵臓がんを対象にした後ろ向き臨床試験によりますと、2年生存率を更新し、急性の副作用も減少するという結果が出ているようです。
昨今、このように進化が目覚ましい放射線治療により、早期がんの場合、切除せずに治すことができるため臓器の機能や形態(美容)を維持できることなど、図7のような様々なメリットがあります。
放射線治療の場合、自宅で生活するのが困難なほど状態が悪い場合を除いて、基本的に入院する必要はなく、普段通り生活を送りながら通院による治療が可能で、同大学付属病院の場合、通院治療が95%を占めているそうです。
少子化が進んでいる上、移民を受け入れない日本人では労働力を確保するために元気な高齢者の就労が必要となっています。
通院による治療が可能となれば、がん社会に欠かせない「治療と就労の両立」が成立するだけではなく、現役世代のみならず、高齢者にも望ましいことであり、現代社会にマッチした治療法と言えます。
放射線治療の実際は治療寝台の上に短時間横になっているだけで、痛みも刺激もなく、副作用も少ないということもあって、放射線治療を受けた患者さんは「自分が思っていたがん治療のイメージとは全く違った。」という意見が多く、「やってよかった。」と喜ばれています。
そのような放射線治療は、がんによる症状緩和にも有効とされていて、例えば容骨性骨転移により腓骨が溶けた患者さんに放射線を照射したところ腓骨が再構築され痛みが緩和したというケースがありますし、図8のように転移性脊髄腫瘍のため手足が全く動かなかった患者さんが、四肢の麻痺が解消され、動けるようになったケースもあります。
根治を望めない状況でも、残された時間をどのように過ごすかは非常に重要になりますので、1回の照射で症状の改善が期待できる放射線治療はQOLの維持にも役立つと言えます。
中川先生は「がん治療はまず手術」という固定概念が払拭できない一因として、がんについて学ぶ機会がないことを指摘しており、長年にわたり、子供たちにがん教育の必要性を訴えてきました。
ようやく2017年度から全国の小中高等学校でがん教育が始まったということですが、その成果は20年後、30年後になるということです。
また、今、がんに直面している患者さんに対し、かかりつけ医が「放射線治療という選択肢もある」ということを伝える必要性についても指摘しております。
がんの疑いがある患者さんの場合、その多くは外科医がかかりつけ医になりますので、がんと確定診断された場合は、すぐさま「いつ手術しますか?」となり、わが国では放射線治療が検討される余地が少ないというのが現状だそうです。
一方、欧米の場合、がん治療の方針決定の際、実際に治療に携わる外科医や放射線科医に加えて、最適な治療法を選択しているかどうかの見極めをジャッジするために、腫瘍内科医が関わるそうです。
残念ながら、わが国では腫瘍内科医が少ないのが現状ですので、かかりつけ医が「放射線治療医にも相談してみて下さい。」という助言が重要になる訳です。
このように放射線治療は、多くのがん種を対象とし、早期がんから進行がんまで、また根治治療から緩和治療まで幅広く対応できるということが大きなメリットとなりますので、中川先生は放射線治療による恩恵が広く受け入れられることを望んでおります。
本日は、がんの放射線治療について中川先生の大変興味深いお話でした。
放射線治療は様々ながん種に対して、また、がんの病状に合った幅広い対応が可能であり、ほとんどの場合、日常生活を送りながら通院治療が可能であることも認識できました。
また、がん教育の活動成果は数十年後になるということですから、大変、根気のいる活動ではありますが、将来、その成果が実を結び、外科手術に並んでがん治療の第一選択肢になりますことを期待しております。