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スポーツ歯科における歯科医師の役割とマウスガードによる支援について

2018.06.06

歯科

1998年10月、東京歯科大学では、世界で初めて健康スポーツ歯科が開設されました。今回は同大学 口腔健康科学講座スポーツ歯学研究室 武田友孝先生によるスポーツ歯科における歯科医師の役割とマウスガードを中心とした支援のポイントについてお話しいたします。

 

スポーツ歯科には2つの大きな役割があり、1つ目は、虫歯や歯周病、咬合不全などの口の中のトラブルに対応し、十分な咀嚼ができるようにすることです。

スポーツ選手にとっても、噛むことが食物の消化吸収に影響を与えるため、しっかり噛めることは非常に重要でアーモンドを十分に噛んで食べたグループと噛まずに食べたグループの便中のエネルギー量と脂肪量を比較した米国で行われた研究では、噛まずに食べたグループの方が便中のエネルギー量も脂肪量も多く、体内に吸収されにくかったという結果が出ています。

このことから、歯科治療で口腔内環境を整える咀嚼のケアは食事や栄養の支援することに繋がり、選手のパフォーマンスを高めることに役立ちます。

そして2つ目は、顎顔面や口腔に受けるスポーツ外傷への対応で、歯科領域に関わるものは全体の6~15%と多く、そのうち、競技の種類に関係なく最も損傷する頻度が高いのは、上の前歯2本で全体の95%を占めます。

その対応で最も重要なのは予防で、対策としては、まず口腔内環境を整えることです。

外傷の原因となる上顎前突などの不正咬合は、青少年のスポーツにおいて頻度が高く、矯正装置の装着で、より一層、損傷しやすく他人に怪我を負わせる危険視もあるようです。

 

そこで、顎や口腔内を保護するマウスガードによる外傷防止も有効とされています。特に動きの速いスポーツや接触の多いスポーツでは、歯科領域での外傷発生率が高く、競技種目によって、マウスガードの装着が義務化されていたり、推奨されていたりするようです。

また、マウスガードには脳震盪の予防効果も期待されています。そのメカニズムは、マウスガードを装着して噛むことで首の筋肉がしっかり固定されるため、衝撃を受けても脳へのダメージが軽減される他、体の平衡感覚を高めるため、パフォーマンスの維持向上させる一助になるとされています。

マウスガードを噛むことによって、顎の筋肉が強化され、体全体がブレにくくなるため、無駄な筋肉を使わず、効率的に筋肉を使うことで体が疲労しにくくなり、パフォーマンス向上に繋がるのではないかと考えられています。

つまり、マウスガードは単にスポーツ外傷の予防として、顎や口腔内を保護するという機能だけだはないということです。

スポーツ選手が、マウスガードの機能を最大限に利用できるように、専門知識のある歯科医師が、必要に応じて咬み合わせの調整としっかりと噛めるマウスガードを製作することが重要なことだということになります。

しかし、残念なことに現状では選手や指導者にも、その認識が少なく、現在、選手が使用しているマウスガードは、その大半が市販品だそうです。

市販品の場合、噛み合わせの微調整ができず、適合性に欠けるため、しっかり噛めず、試合中にマウスガードが脱離してしまうこともあるようです。

 

そこで、同研究室では、マウスガードの開発にも注力していて、安全性と機能性を重視した3層構造の「ハード&スペースマウスガード」を開発しました。(図1)

構造は、軟らかい(ソフト)素材で硬い(ハード)素材をサンドして、マウスガードと歯の間に隙間を作ることで、衝撃の吸収と分散が可能になりました。(図2)

なお、素材や構造の違いによる衝撃緩和率を調べた結果、ラミネートマウスガードを使用した場合47.5%、ハードを併用した場合81.6%、このハード&スペースマウスガードの場合、

9.8%もの衝撃を吸収する効果が得られたようです。(図3)

 

また今日、スポーツ界において安全性と機能性に優れたマウスガードの普及啓発が重要であるという考えの下、日本スポーツ歯科医学会、日本体育協会、関東ラグビーフットボール協会などでは、スポーツ歯科の講習会を行っており、その講習会を通じて、専門的な知識の習得したスポーツ外傷を治療する機会の多い形成外科医や第一線の歯科医師が、日常診療の合間にでもマウスガードの製作活動に関わっていければ、あらゆる競技でどのランクの選手にも高品質なマウスガードの装着が可能になると考えているようです。

 

今回は、日本オリンピック協会 バレーボール、レスリング部門の強化スタッフ、各スポーツ連盟や協会の委員も兼任されているのでもある武田友孝先生の大変、有意義なお話でした。

 


スポーツ歯科における歯科医師の役割とマウスガードによる支援について
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