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認知症高齢者に対する歯科クリニックに役割について
2018.11.19
歯科認知症対策が国家的プロジェクトとして行われる中、歯科クリニックも一握を担うことが求められています。
今回は、歯科の役割と支援の要点について、母校の口腔リハビリテーション多摩クリニックの院長菊谷武先生のお話をします。
現代医学では認知症は治らない病気の一つです。
厚生労働省の調査では、2012年の時点で軽度認知障害(MCI)の約4000万人に認知高齢者数約462万人(推計)を合わせると65歳以上の4人に1人に上るようで、2025年には、団塊の世代が75歳以上の高齢者になる5人のうち1人が認知症になると予測されています。
そのため、街中の歯科クリニックにも高齢者のけ入れる機会が増えることが予測されていますが、治療を円滑に行うための対処が良くわからないという理由から、重度認知症への対応が懸念されているようです。
しかし、実際問題として、認知症の症状が重度になってからでは、治療を円滑に行うための方法は存在しないようです。
認知症は発症後、数年単位で病状が進行し、最終的には寝たきりとなり栄養不良や誤嚥性肺炎を併発して死亡するという経過を辿るようです。
つまり、認知症の症状が重篤化するまで5~7年の期間に、しっかりと歯科が関わることが大切だということが言えるようです。
認知症の病状が進行し、歯ブラシの使い方が分からなったとたん、口腔内環境は一気に悪化することを考えると、家族の協力体制を整えながら、できるだけ早い段階で口腔内の状態を良好に保ち、「口腔内貯金」を作ることが重要だそうです。
また、口腔ケアには、認知機能の低下防止効果があることも実証されているようです。
実際、図1からも分かるように、10か所の特別養護老人ホームの入所者179人を対象に、週1回の専門的な口腔ケアと口腔機能向上訓練を12か月行ったグループ(介入群)と、行わなかったグループ(非介入群)に対し、認知症テストの1つであるミニメンタルステート検査(MMSE)を行った結果、介入群の方が認知機能の低下を防ぐことが分かった。
また、国の認知症の早期発見・早期支援においても、歯科クリニックの役割は大きいと考えられていて、例えば表1のような症状が見られる場合、認知症が疑われるため、ご家族には地域包括支援センターに相談するようアドバイスすると同時に、積極的に患者本人に関われば、認知症の初期段階から、歯科本来の治療が可能となるようです。
認知症の症状は認知機能の低下とともに、全身機能も低下し、これに伴い口腔内環境も変化するため、表2に記載したように認知症の病状別に初期、中期、後期に分け、各ステージごとに応じた歯科治療が大切であると同時に、次のステージへの変化を予測しながら、治療目標を立てることが重要になるようです。
初期
判断力の低下により、口腔清掃や義歯の管理が困難な状態であるが、受診能力は維持されているので、対応が困難になるステージに備え、集中的で積極的な介入が必要なようです。
具体的には、不良な銀歯等の補綴物を除去しだnnた後、再製し、口腔内を清掃管理しやすい環境に整えることが重要なのだそうです。
なお、補綴物を再製する際、できるだけ単純な設計にしたり、予後不良が懸念される歯牙については積極的に抜歯するなどの対策が必要なのだそうです。
中期
認知機能だけでなく、運動機能も低下するため、自身で口腔ケアができなくなる状態であるため、口腔内環境が一気に悪化することが懸念されるため、介護者である家族に口腔ケアの方法を指導し、ホームケアとプロのケアの両面から徹底的に口腔衛生管理を行うことが必要なようです。
通院不可となる後期ステージを想定し、通院可能なうちに治療を前倒しすることも必要とされています。
後期
運動障害に咀嚼障害、嚥下障害が見られる状態で、咀嚼障害については、一見、咀嚼しているようで、咀嚼機能が喪失している場合が多く、その見極めが重要なのだそうです。
たとえ自分の健康な歯で、噛み合わせが維持されていても、適合が良好な義歯が装着されていても、咀嚼運動ができなければ意味ありません。
選択肢の1つとして、義歯を外すこともあり得ますし、咀嚼不要な食事への変更も視野に入れなくてはならないようです。
最近、TVドラマでも軽度認知障害(MCI)という言葉を耳にしますが、私にとって、菊谷先生のお話は高齢化が進む我が国において、切実な問題として再認識しなくてはならない興味深い内容でした。
認知症患者さんに対して、今後、一歯科医として自分にできる取り組み方について考えてみたいと思います。