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口腔内細菌叢が持つ概日リズムについて

2019.05.01

未指定

早稲田大学と東京大学との共同研究グループによると、口腔内細菌叢には約24時間周期で変動する生体内の生理的変化である概日リズム(サーカディアン・リズム)つまり、体内時計が存在することが解明されましたが、本日は、その研究リーダーである早稲田大学理工学術院先進理工学研究科 服部正平教授のお話をします。

 

細菌叢のDNA情報によるメタゲノム解析技術が開発され、細菌の種類や数を正確に把握できるようになったこともあって、人の常在菌の解析が進み、腸内細菌叢(腸内フローラ)の全体像が明確になったため、腸内細菌叢の変容(ディスパイオシス)により肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、自閉症などの疾患の発症に関連していることも解明されたようです。

 また、常在菌は腸だけではなく、唾液や皮膚にも存在し、特に唾液中には、約700種の常在菌が細菌叢を形成していますが、元々、唾液は無菌であるため、口腔内粘膜の細菌が唾液に流出したと考えられるようです。

また、唾液細菌叢には腸内細菌叢とは異なる生理的機能や制御システムが存在するため、腸内細菌叢に比べ、食物や薬物の影響に左右されにくく、個人差が少ないと言われています。

 さらに、唾液細菌叢の変容が、齲蝕や歯周病だけではなく、炎症性腸疾患、リウマチ、膵臓がんなどの全身疾患においても確認されているため、それら疾患との関連性があるとされているようです。

 つまり、健常者と炎症性疾患患者の唾液細菌叢を比較すると、全く異なっていることから、疾病に罹患するなど生体内部の生理的変化により唾液細菌叢は敏感に反応することを意味しています。

 それを裏付けるため、概日リズムに着目したメタゲノム解析を用い、唾液細菌叢の時間的変化を調べたそうです。

 細菌解析、遺伝子・機能解析という2種類のデータを収集するため、男女6名の唾液を3日間にわたり4時間ごと(0時、4時、8時、12時、16時、20時)に採取し、細菌叢のDNA解析を行ったそうです。

 その結果、6人の唾液細菌叢について、門レベルでの菌種組成を調べたところ、毎日24時間周期の概日リズムを持って変動が繰り返されており、属レベルでの菌種組成では、個人差が認められたものの7~9割の菌種に概日リズムがあり、優勢菌種の大半においては24時間周期で増減することが判明したそうです。

 例えば、プレボテラは早朝から正午にかけて、ロチアは正午から夜中にかけて、ストレプトコッカスやガメラでは夕方から早朝にかけて増殖するなど菌種によって時間帯が異なったり、ベイロネラのような個人差により増減の時間帯が異なるよう菌種も存在することが判明したようです。

 また、好気性菌、偏性嫌気性菌、通性嫌気性菌別に概日リズムのパターンを確認してみると、好気性菌は12時、偏性嫌気性菌は0時、通性嫌気性菌では8時をピークに増殖したことから、口腔内の酸素量が昼間の活動中から夜間の就寝中に減少することに関連して、好気性菌と嫌気性菌の増減パターンが昼間と夜間で入れ替わるということが判明したようです(図1)。

 また、グラム染色性別で細菌を調べてみると、グラム陽性菌は夜間に、グラム陰性菌は昼間に増殖することも判明したようです。

 また、唾液細菌叢を試験管の中に放置し、口腔内の刺激・シグナルを遮断すると概日リズムは完全に消失したことから、まだ解明されてはいないようですが、唾液細菌叢は口腔内粘膜におけるある概日リズムシグナルに応答していることが判明したようです(図2)。

 一方、メタゲノム解析から得られた約370種類の機能モジュールのうち、55種類のモジュールにて、24時間周期で増減することが判明したようです。

これらの機能を調べると、膜トランスポーターや2成分系など環境応答に関わる遺伝子群は夜間の増殖に関係するのに対して、ビタミンや脂肪酸合成など代謝に関わる遺伝子群では昼間の増殖に関係することが判明したようです。

 つまり、前述した夕方から早朝にかけて増殖するストレプトコッカスやガメラでは環境応答に、早朝から正午にかけて増殖するプレボテラは代謝に連動するということを意味しています。

  これらの研究結果から、人の唾液細菌叢は、細胞や臓器のように生体内部の生理状態の変化に敏感に反応し、概日リズムを持っていることが判明しました。

 今後、腸内細菌叢のように唾液細菌叢を利用してストレスや健康状態の評価ができたり、疾患の早期発見・鑑別診断が行えるようになるためには、唾液細菌叢の作用と役割のより一層の解明が重要なカギとなるようです。

 また、腸内細菌叢に加え、唾液細菌叢を活用するために行う唾液の採取は、血液や便の採取と異なり、簡便で非侵襲であることから、今後、新しい検査法として期待されるところだそうです。

 

令和元年の初日にあたる本日は、服部先生による口内空内細菌叢について大変興味深いお話でした。

 

 

 

 


口腔内細菌叢が持つ概日リズムについて
口腔内細菌叢が持つ概日リズムについて