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ACP(アドバンスケアプランニング)の重要性、その実際と課題について(前編)
2019.09.05
未指定皆様こんにちは。
わが国では高齢化により年間130万人が亡くなっており、今や人生における最終段階をどのように迎えるのかを社会全体で考えなくてはならない時期に来ているようです。そんな中、人生の最終段階で受けたい医療やケアについて、患者さん自身の意思を尊重し、ご家族や医療従事者である医師、看護師、MSW(医療ソーシャルワーカー)を交えて話し合うプロセスであるACP(アドバンスケアプランニング)の重要性が注目されております。
本日は、このACPを導入した群馬県にある公立富岡総合病院長佐藤尚文先生より、実践と課題についてお話をさせて頂きます。
患者さんが受けたい最善の医療やケアの方向性を見出すために、ただ単に延命治療の必要性などの医療やケアについて決めるのではなく、ご本人の人生観や死生観まで踏み込んだ上で、大切にしていること、価値を感じているもの、「命」に対する考え方、さらに最後の時間を「どこで」「誰と」「どのように」過ごしたいかなどについて具体的な内容を聞き出そうというものです。
図1には人生の最終段階における医療やケアの方針決定までの流れについて記載してあります。
終末期の意思表示の手段として、事前に「リビングウィル」という延命治療についての希望を記載する書面や、自身で判断ができなく
なった場合に備え「アドバンス・ディレクティブ」という受けたい治療、受けたくない治療を記載した事前指示書がありますが、そのような書面だけでは実行性が明確ではないようです。
ご家族や医療従事者が話し合い、ご本人の意思を共有できていないと、患者さんの意に沿わない医療行為がなされる結果となる訳ですが、意識調査によると、人生の最終段階で受けたい治療やケアについて、ご本人と「話し合ったことがない」という回答が55.1%を占め、ご本人の心情を酌み、踏み込んだ話はしていないも入れて「一応、話し合っている」という回答は36.8%に留まったそうです。
「どうしてその医療を望まないのか」「何故そうしたいのか」を決めた背景には、人生観や死生観を含むご本人なりの「理由」がある訳ですから、ご本人が希望する最後を実現するためには、ACPという話し合いの過程が有効となるようです。
しかし、図2の通り、現状ではACPの認知度は低く、医師でさえ41.6%が「知らない」と回答しています。
また、ACPの賛否については、人生の最終段階の患者さんに関与していない医師も含めて、21.5%の医師が「分からない」と回答しており、図3では、ACPの取り組みは始まったばかりと言えそうです。
ちなみに、図2、3の調査結果は、いずれも厚生労働省が平成29年12月に一般国民973人、医師1088人、看護師1620人、介護職員573人を対象に行った「平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査結果」に基づいています。
同病院でのACP導入については、2015年に行われた厚生労働省の「人生の最終段階における医療体制整備事業」への参加がきっかけとなったそうです。
同病院でのACP対象者は、1年以内に亡くなることもあり得るものの、肺炎を併発したものの退院が間近など、非がん疾患で緩和ケアが必要なご高齢の患者さんで、携わるスタッフについては、医師、看護師、MSWの方々による「シルバーケアチーム」を結成した上で、患者さんとご家族が話し合う際には、研修プログラムを受講した看護師とMSWが帯同する体制を取っているそうです。
また、必要に応じて、リハビリスタッフや薬剤師、地域のケアマネージャー、さらには退院後に入所予定の施設の職員が参加することもあるそうです。
なお、ご本人の意思は変わる可能性があるため、話し合いは繰り返し行われ、話した内容については書類上に記載後、保管し、再入院時に過去の記録より意思確認とともに、再度、話し合いの下で変更点があれば記録を上書きするようです。
また、話し合いを行う際、「退院後はしたらどうしましょうか?」という質問から切り出し、退院後、ご自宅でどのように過ごしたいのか、心配や不安なことの有無など「生活に関わる話」をするそうです(図4、5)。
なお、「親が亡くなる」という現実が想像できないというご家族の方に対しては、「患者さんの残された時間はそう長くない」ということを認識してもらう様です。
本日は、佐藤先生によるACPの重要性、その実際と課題について大変、興味深いお話でした。人生の最終段階における捉え方について大変、考えさせられました。次回も引き続き、後編としてACPについてお話しをさせて頂きます。