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iPS細胞による再生医療について
2019.10.08
未指定皆様こんにちは。
ヒトiPS細胞の樹立に尽力された中山伸弥教授(京都大学iPS細胞研究所 所長)が、2012年に「ノーベル生理学・医学賞」受賞されたのは周知のとおりですが、本日はそのiPS細胞(inducedPluripotent Stem cell)による再生医療についてのお話をさせて頂きます。
2006年にマウスiPS細胞、2007年にはヒトiPS細胞の作製方法についての論文が発表されたのち、2014年には世界初のiPS細胞を用いた移植手術が行われましたが、将来の実用化を目指し様々な疾患でiPS細胞を利用した研究が行われています。
京都大学iPS細胞研究所(通称CiRA/サイラ)では、パーキンソン病などいくつかの疾患の治療や臨床研究が始まったようです。
iPS細胞は、体内から取り出した細胞にごく少数の因子を導入することで、全身の多種多様な細胞に分化する多能性と無限の自己複製能力を持った人工多能性幹細胞ですので、様々な組織や臓器の細胞を作れるという利点を生かし、細胞を移植する再生医療、疾患の原因究明のツールや新薬開発などへの利用が期待されています。
多能性幹細胞としてES細胞(胚性幹細胞)もあり、1988年にはヒトES細胞が作製されましたが、製作上、受精卵を破壊なくてはならない上、他家移植のため拒絶反応するなどの問題があるのに対して、iPS細胞は受精卵を使用せず、皮膚や血液など採取しやすい体細胞から作れる上、自家移植が可能で、拒絶反応が起こらないというのが利点です。
また、様々なiPS細胞の作製方法が開発されていますが、CiRAでは、臨床で使用するため、安全性が高い、効率的な方法を確立しているそうです。
作製の過程でiPS細胞が腫瘍化するのは、細胞に導入された初期化因子が再石灰化したり、初期化因子の人工的な導入により、細胞本来のゲノムに傷がつくことが原因とされていて、腫瘍化を引き起こす可能性がある4つの初期化因子(Oct3/4、Sox2,c-Myc、Klf4)のうちの一つに代替因子を用いて作製したiPS細胞の場合、腫瘍形成がほとんどなく、製作効率や多機能性が高いことが判明したようです。
初期化因子を細胞に導入する‘運び屋’として「レトロウイルス」由来の「ベクター」を使用していた当初、ウイルスが細胞のゲノムに無作為に組み込まれるため、その細胞が持つ遺伝子が失われたり、活性化する可能性があるため、腫瘍化する危険性があったようですが、環状DNAの「エピソーマルベクター」を使用したところ、遺伝子を傷つけずに自律的に増殖したということです。
腫瘍化するもう一つの原因として、未分化細胞の残存により引き起こされる奇形種(良性腫瘍)の形成にあるようですが、移植用の細胞を確実に目的の細胞に分化させた後、未分化細胞を除去することで改善できるようです。
その他、ドパミン産生神経細胞を効率よく分化させる方法や、血小板を大量に安定的に賛成する方法などの報告があり、実用化に向けて前進しているようですが、ヒトのサイズに見合う、体内で機能するような大きく立体的な臓器が完成したという報告は未だないようです。
しかし、横浜市立大学のグループがiPS細胞から直径5mmのミニ肝臓の作製に成功するなど、血液、網膜、心筋、角膜、運動神経、骨・軟骨など様々な組織や臓器の細胞への分化に成功したという報告はあるようです。
2014年には、iPS細胞を用いた世界初の手術として、加齢黄斑変性の患者さんに網膜細胞の移植が行なわれ2017年には5例の他家移植を行い現在、経過観察中だそうです。
また、iPS細胞を用いた治療として、脊椎損傷に期待が寄せられており、サルの実験では、歩けるようになるまで回復させることに成功しており、2019年2月、慶應義塾大学のグループが、厚生労働省の専門部会から臨床研究計画を承認されたと発表しています。
また心臓病は、移植手術しか選択肢がない場合も多く、移植以外の治療法が求められている中、CiRAでは、ヒトiPS細胞から、メッシュ状の人工心臓組織を作成し、ラットの心機能改善に成功しています。
また、2017年には、世界に先駆けてiPS細胞を利用して発見された難病治療薬の医師主導治験も開始されました。
進行性骨化性繊維異形成症(FOP)の治療薬候補に「シロリムス」という既存薬がありますが、マウスでは病気の進行抑制効果が見られたようです。
本日はiPS細胞による再生医療についてお話させて頂きましたが、今後のさらなる飛躍のため、活動的な様々な疾患での治験や実用化に向けた臨床研究が行われることを期待したいと思います。