ブログ
Blog
「ゲーム障害」について(前編)
2020.01.13
未指定皆様、明けましておめでとうございます。
本日は、ゲームに依存する疾患である「ゲーム障害」に対応すべく国内初「ネット依存治療専門外来」を開設した国立病院機構久里浜医療センターの精神科医長である中山秀紀先生のお話を「ゲーム障害について(前編)」としてします。
2019年5月、日常生活に支障が出るほどオンラインゲームなどを過剰にはまる未成年者に対して「ゲーム障害」として世界保健機関(WHO)が疾患として認定されました。
2017年に行われた厚生労働省の調査ではインターネット依存が疑われる中高生は約93万人、7人に1人
に相当し「ゲーム障害」も相当数存在すると考えられています。
WHOの最新の国際疾患分類(ICD-11)に収載が決まった「ゲーム障害」の主な診断基準は、図1のとおり3つの条件で、自分の意思でコントロールできない程、没頭し、日常生活に支障をきたしている場合、これに該当するもので、ゲームを行うことが悪い訳ではありません。
特にオンラインゲームが盛んな韓国や中国、世界各国でゲーム依存が社会問題になっています。
診断基準が確立したことで、治療対象として扱われ、実態の把握が進むなどの効果が得られたことから、持病として認知されたことに大きな意義があります。
図2に示すとおり依存する過程はアルコール依存症やギャンブル依存症など他の依存症と同様とみなして良いようです。
快楽が頻繁に継続すると次第に鈍感になり耐性がつき、それに接していないと不快という離脱症状になり、その不快から解放されたくて依存物の使用がエスカレートし制御不能となります。
適度な使用の加減ができず、やめられないのが依存症の病態です。
娯楽として行ったゲームによって、初め満足感や高揚感を覚えますが、これを得ようとする行動が強くなることを「正の強化現象」といい、しまいにはゲームをしてないと不快になります。
本来、ゲームは楽しむためにするものなのに、「負の強化効果」と呼ばれる「苛立ち」や「不安感」を避けるために、ゲームをするような行動に変化します。
この2つの効果でゲームがやめられなくなり、楽しいはずなのに、幸せではないという矛盾を生むのが「ゲーム障害」です。
「ゲーム障害」は、その他の依存症との違い未成年者が多いということが特徴です。
飲酒やギャンブルの場合、未成年者は禁止されていますが、ネットやゲームは未成年者でもできますし、未成年者であるがゆえに自我に対するコントロール力が弱く成人より依存しやすいという側面があります。
原則、依存症の治療は自己責任になり、自己責任なくして依存からの脱却は困難を伴いますが、未成年者の場合、親が監督義務を負うため自己責任の原則が通じません。
未成年者は生活に問題が生じても不自由さを感じないことが多いため、問題解決を先延ばしにする傾向があり、親に守られていることが治療の妨げとなってしまい治療が遅れがちになります。
久里浜医療センターでは2011年に「ネット依存治療専門外来」を開設して以来、図3のとおり受診者数は累計1500人以上にのぼり、10代が7~8割を占め、男女比は5:1で男子が多く、ネット依存の約9割に「ゲーム障害」が見られます。
開設当時に比べてスマートフォンが普及した結果、13~19歳のスマホの個人保有率は2011年では18.2%(全年代の14.6%)でしたが、2017年には79.5%(全年代の60.9%)に上昇し、高校生は90%を超えています。
スマートフォンは個人が所有するものですから、家族と共有しなくてよく、いつでも自由に気軽にゲームを利用できるため、敷居が低く、ゲームをする人が急増している一因となっております。
「ゲーム障害」はインターネットに接続していないオフラインゲームも含みますが、今日の主流はオンラインゲームで、「ゲーム障害」には男子が多い理由は、戦闘ゲームやサバイバルゲームなど男子の好きなものが多いことも起因しています。
また、昔のゲームには終わりがありましたが、最近のオンラインゲームはユーザーが飽きない工夫がされていて、次から次へと新たなステージが追加され、終了がなく、依存性が高まっています。
図4、5のとおり、厚生労働省の2017年度の調査では「ネットを使っていないと落ち着かない」などの「ネット依存」が疑われた中高生は、5年間で約1.8倍に増加して約93万人にのぼります。
中高生の7人に1人が「ネット依存」に相当することになりますが、これには不登校の生徒が含まれてないため、実際はもっと多いと推測されます。
ではネット依存について成人ではどうなのかというと未成年者と調査方法が異なるものの、2012年度の時点で約421万人(男性4.5%、女性3.6%)と5年間で、やはり約1.5倍に増加しました。
ゲームの時間確保が最優先されるネット依存では、睡眠や食事などの生きるために不可欠な行為が後回しになるため、昼夜逆転の生活リズムになるなど、日常生活に様々な支障が生じます。
図6のとおり、ゲームに夢中になり夜更かしをすれば、朝起きられなくなるのが当然で、学校へは遅刻、授業中では居眠りするなどの回数が増えるため、学習意欲が湧かなくなり、成績低下に繋がります。
不登校や引きこもりに発展するケース、ゲームから離れたくないがために、運動不足になりがちで、食事もおろそかになり、栄養の偏りも生じます。
なお、「ゲーム障害」の人の脳も同様、依存症の人の脳は社会的・理性的な判断に関与する前頭前野の機能低下が見られ、衝動などの感情のコントロールができないと言われているとおり、脳機能の変化もやめられない理由の一因となっています。います。
夏休みや冬休みといった長期休暇は時間が十分にあるため、ゲームに没頭できる時間が長く取れる上、登校する必要がなく、夜更かしできることで、ゲームに依存するリスクが高くなるとされています。
また「ゲーム障害」は発達障害を合併しているケースが多いのも一つの特徴ですが、この場合、難治性と考えられています。
発達障害が合併する場合、コミュニケーションが苦手で友達付き合いうまくいかず、家に引きこもってゲーム漬けになるケースもあれば、発達障害の場合、のめり込みやすいという特性を持つことから、学校生活に支障をきたさなくてもゲームにはまるケースまで様々です。
本日は現代社会らしいネット社会を反映している疾患について、中山先生の大変、興味深いお話をさせて頂きました。