ブログ
Blog
新型コロナ感染を抑制するVHH抗体について
2020.07.14
未指定皆様こんにちは。
未だに収束が見えない新型コロナ感染症ではありますが、その治療薬として「レムデシビル」が死亡率を低下させる効果があるというニュースを耳にしますが、わが国でも感染症研究で実績のある花王の安全性科学研究所と埼玉大学のバイオベンチャー(Epsilon Molecular/EME)が発見した新型コロナ感染を抑制する「VHH抗体」についてのお話をします。
「VHH抗体」を利用した「抗体医薬」への応用はまだ先となるようですが、PCR検査より早い診断薬や検査薬への応用に期待されています。
「VHH抗体」についてお話する前に、まずは「抗体」についてお話します。
体内に細菌やウイルスなどの外敵が侵入すると自分の体を守るためそれらを速やかに排除するため、免疫機構が働きます。
その主役が「抗体」で、血中の抗体が特定の異物にある抗原と結合することで貪食細胞であるマクロファージや好中球が活性化し異物を生体内から除去するという作用機序です。
抗体は免疫グロブリン(Ig)という体内で作られるタンパク質でできていて、私たちの身体はどんな異物が侵入しても、ぴったりと適合する抗体を作ることができます。
「抗体」の基本構造は2本のH鎖と2本のL鎖からできたY字形をしており、そのY字形の先端半分は結合する抗原ごとに異なる構造に変化する可変領域と、下半分は免疫を担う細胞と結合する定常領域に分かれています。(図1)
2020年5月7日、森本拓也氏がグループリーダーである花王の安全性科学研究所は、根本直人氏が代表取締役である埼玉大学のバイオベンチャー(EME)による「cDNAディスプレイ法」という技術を用いて、わずか3週間で100億種以上の酵素の候補の中から、新型コロナウイルスを識別し無力化する抗体を分離することに成功したという報告がありました。
研究チームがアルパカなどのラクダ科の動物の抗体(図2)から作製したこの抗体は、一般的なIgG抗体の10分の1という大きさで、微生物を利用して作製できるため、低コストで、温度やpHなどに対する安定性が高く、保管や輸送の取り扱いが容易な上、改変しやすくウイルスの変異に対応しやすく、大量生産も可能であるということです。(図3)
構造も単純なこの抗体は「VHH(Variable domain of Heavy chain of Heavy chain)抗体」と呼ばれ、新型コロナウイルスの表層に存在する突起状のスパイクタンパク質S1ユニットに結合し、ウイルスがヒト細胞の受容体を介して感染するのを制御するということです。
さらに花王は、北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学I研究室 片山和彦教授らと共同でVHH抗体の感染抑制能を検証し、VHH抗体と新型コロナウイルスを培養したヒト細胞に同時に反応させたところヒト細胞への感染を抑制することが判明しました。
VHH抗体は風邪の原因であるコロナウイルスOC43に対しては感染制御能を発揮せず、新型コロナウイルスへの特異性を示しているということが分かったそうです。
東京では毎日のように感染者数が100人を下らないというニュースを耳にしますが、できるだけ早い段階での抗体薬の活躍が期待されるところです。