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「低出力パルス波超音波治療によるアルツハイマー病への応用について(前編)」

2023.03.22

未指定
皆様こんにちは。
突然ですが認知症は世界中で毎年1000万人、3秒に1人が発症しており、世界中で根本的な治療方法が待たれる中、治療薬についても困難を強いられてるようです。
図1からも分かるように国内では1999年から2014年までの15年間の統計では血管性認知症は横ばいであるにもかかわらず、アルツハイマー病は3万人からの約18倍の53万人と著しい増加の一途をたどっています。
本日は「低出力パルス波超音波治療によるアルツハイマー病への応用について(前編)」というテーマでお話します。
この「低出力パルス派超音波療法」とは特殊な条件の超音波を照射して自己治癒能力の活性化を促進するという従来とは全く異なる概念で認知症の改善を図る治療方法です。
この革新的治療法によるアルツハイマー型認知症の患者さんに対する治験は始まっており、本日は開発者でもある東北大学医学系研究科循環器内科学教授 兼、国際医療福祉大学大学院副大学院長 医学部・大学院医学研究科教授でもあります下川宏明先生のお話をします。

アルツハイマー病は進行性の神経変性疾患ですが、最近の研究から微小循環障害を起こしている血管病と捉えることができると考えています。
また糖尿病の人はアルツハイマー型認知症になりやすい傾向にあるとされていますが、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの動脈硬化が引き起こす血管病と共通の危険因子を持つことが分かっています。
わが国で承認されている4種のアルツハイマー型認知症はいずれも記憶障害や判断力低下などの症状の進行を遅延させるいわゆる症状改善薬であるのに対して、下川先生のグループが開発した東北大学の「低出力パルス波超音波治療」(以下、超音波治療)は、微小循環障害を改善するという点で、認知症の根本的な改善を図る点が大きく異なる点だそうです。
図2のとおり照射する超音波は連続波と異なり1つの塊を断続的に出すパルス波を使用します。
生体内の機械的振動によって生じる熱の発生を抑えられるパルス波は連続波より強い強度で照射することがメリットになりますが、最も効果的な周波数は「16波」や「64波」ではなく、生体と一番共鳴すると考えられるのが「32波」という結果を示したそうです。
照射方法は図2のとおり、耳の少し前の側頭部にヘッドホンの耳当てのような凸型振動子を密着させ、そこから超音波を照射しますので、装着時の違和感がなく、患者さんは治療中、横になっているだけです。
超音波治療の主な作用機序は、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性化になりますが、一酸化窒素(NO)には血管内皮細胞増殖因子を増やす働きがあり血管内皮細胞の細胞増殖因子は血管新生促進作用があります。
図3で示したとおり、作用機序は照射した超音波が血管内皮細胞に作用し、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)や血管内皮細胞増殖因子の発現を促進させ、血管新生を誘導して血流を増加させるというものです。
血管内皮細胞の細胞膜にある複合体を除去したマウスには血管新生しないことが分かっています。
認知症の予防に有酸素運動や友人との談笑などが良いとされる理由は、脳の血流を増やすからと考えられています。
認知症治療薬の開発が難しいとされている理由の一つに、「血液脳関門」の存在が挙げられます。
血中の不要物質が脳に容易に到達できない様に堅固なバリア―である「血液脳関門」があるがために、脳の病変まで十分な薬効が得られないとされています。
その点、超音波治療の場合、物理的刺激を利用してアプローチするため、「血液脳関門」の影響を受けないというメリットが大きな特徴になります。
アルツハイマー病の発症機構は、脳内アミロイドβの記憶に関わる海馬への蓄積がきっかけで発症するという「アミロイド仮説」が最も有力な説と言われていますが、アルツハイマー型認知症のモデルマウスではアミロイドβが脳全体に蓄積しているという結果がでており、超音波治療でも「全脳照射」が基本となり、図4のとおりアルツハイマー型認知症のモデルマウスではアミロイドβが顕著に減少する結果が見られたほか、認知機能低下の抑制効果も得られたそうです。
アルツハイマー型認知症のモデルマウスに迷路実験を行ったところ、何度も行き止まりに迷い込みゴールに到着できなかったようですが、超音波治療後は、行き止まりの場所を記憶し、治療前より単時間でゴールに到達するという結果になったようで、その他のいくつかの行動実験でも良好な結果をしましたようです。
このようにアミロイドβが脳に何らかの悪影響を及ぼしているのは事実としても、アミロイドβのみ除去すれば症状が良くなるわけではないことが分かってきています。(図5)
下川先生は微小循環障害が長期間に及ぶと慢性炎症が遷延化し、アミロイドβが蓄積されると推測しています。
この微小循環障害は認知症の他、様々な疾患の治療における重要な鍵とされるので、疾患ごとに適正な照射条件を設定することで、虚血性心疾患や脳梗塞、心不全など超音波治療の応用範囲は広いと考えられます。

本日は「低出力パルス波超音波治療によるアルツハイマー病への応用について(前編)」というテーマで下川宏明先生の大変貴重なお話をしました。
アルツハイマー型認知症が増加の一途をたどっている中、この革新的な治療法がさらに発展し、普及することを願っています。次回の後編では認知症への超音波療法の開発までの経緯や治験結果を中心にお話します。

「低出力パルス波超音波治療によるアルツハイマー病への応用について(前編)」
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