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「低出力パルス波超音波治療によるアルツハイマー病への応用について(後編)」

2023.04.18

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皆様こんにちは。
本日は「低出力パルス波超音波治療によるアルツハイマー病への応用について(後編)」というテーマでお話します。

超音波で認知症を治すという治療法ですが音波による治療の成功事例があったのがきっかけで開発に至ったそうです。
循環器の専門である下川先生は20年ほど前に「衝撃波」という音波の一種を使った重症狭心症の治療法の開発に着手され、低出力の衝撃波を照射するとNOの産生が亢進するという海外の基礎実験の報告に基づいて、低出力体外衝撃波による血管新再生療法を開発に至り、2010年には先進医療に承認され、安全性と有効性が証明され、世界25ヵ国で1万人以上に行われています。
さらに治療方法を治療時間の短縮ができ安全性が高い超音波へと移行させ、2年かけて同等の効果が得られる照射条件を見つけだしました。
なお、2014年に開始されました東北大学病院など全国10カ所で重症狭心症を対象にした治験が終了する中で、超音波が血管病に有効であることから、脳の血管病であるアルツハイマー型認知症にも有効であろうと考え、脳内でNOを増やすとアミロイドβの蓄積が抑えられたという報告もあることから、2014年から認知症モデルマウスによる基礎実験を開始しました。
超音波療法は患者さんが元々持っている機能を刺激し、十分活用されていない自己治癒力を活性化して自身の力で治そうとする力を引き出そうとする治療法であることから、安全性が高いということになります。
なお、超音波の出力は心エコー検査や腹部エコー検査などと同程度で副作用がほとんどなく、非侵襲性なので重症患者さんや高齢患者さんにも身体的な負担が少なくい上、反復した治療を繰り返し受けられることも利点です。
また、適切な超音波照射は病的組織の血管を新生し血流量を増やしながらも、正常な組織には反応しないことも副反応が起こりにくい理由に挙げられます。
また、NOの産生は血流のずり応力(マッサージ効果)によるものですので、超音波でずり応力がひとたび改善するとNOの産生が促進され、血流が増え、血流の増加によりNOの産生が促進されるという好循環が生じますので、治療を辞めても効果は持続するようです。
事実、虚血性心疾患で効果の維持が見られており、脳でも効果が維持できる可能性は高いと推測できます。
2018年6月に開始した治験の対象は軽度のアルツハイマー型認知症です。
治験第一部で安全性の確認が取れたことから、第2部は2019年4月から、日本のアルツハイマー型認知症研究の第一人者である東北大学加齢医学研究所の荒井啓行教授らと共同で単施設盲検無作為化比較試験(40人)を東北大学病院で行っています。
具体手な方法として、左右交互の全脳照射を1日20分×3回、月・水・金の週3日を治療の1クールとして、3か月ごとに実施し、6クール18カ月の認知機能試験と行動試験で有効性の評価と頭部MRI検査で安全性の評価を行います。
第1部(第2部と同じ治療を1クール実施)に参加した患者さんの5人中4人が、ご家族含めて、効果を実感したため、第2部にも参加し治療を続け、第2部は2022年3月までに最終患者さんの追跡を終了しています。超音波治療はお勤め帰りにクリニックに寄って1時間で手軽に受診できるスタイルをイメージしており、治療だけでなく予防効果にも期待されています。
図6のとおり日本では超高齢化社会が進むにつれ、65歳以上の7人に1人が認知症とされており、中でもアルツハイマー型認知症が7割近くを占めています。
この治験を行うにあたり、多数の患者さんからご応募を頂いていますが、中等度や重度の患者さんは対象にしておりません。
実際に治験に適合する患者さんは5人に1人程度で、最初にご連絡を頂いた際には条件に合っていても、治療開始前や実際に認知機能テストを行うと症状が進行してしまい治験対象から外れるケースも多く、応募から治験までの3カ月の間に認知機能が低下した患者さんへの対応が急がれるところです。
さらに、このコロナ禍中で認知症の進行に拍車がかかっていることが懸念され、できるだけ多く患者さんが一刻も早くこの治療を受けられる様、研究の発展に期待が寄せられています。

本日の後編では超音波治療をアルツハイマー病へ応用された経緯など大変、興味深い内容で大変、有意義なお話でした。
超高齢化社会に突入している日本で今後も増加の一途をたどるアルツハイマー型認知症の患者さんにとって、身体的負担も少ないこの超音波治療が当たり前の世の中になっていくことを願っています。

「低出力パルス波超音波治療によるアルツハイマー病への応用について(後編)」