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マルチブラケット装置について
2024.05.03
歯科皆様、こんにちは。
GWは如何お過ごしでしょうか。
本日は、「マルチブラケット装置について」というテーマでお話します。
ワイヤーやエラスティックゴムなどの弾力性を矯正力として活用し、骨組織に変化を与え、歯の移動を行うという矯正治療の中でも、歯に接着したブラケットにワイヤーを装着する装置で構成されているマルチブラケット装置は、最も代表的な矯正装置で、とりわけ、その主流はエッジワイズ装置と呼ばれ、アーチワイヤー(主線)とブラケット、チューブ、バンドなどの装置で構成されています。1912年、釘管装置に始まり1916年、紐状装置を発表したAngle E.H.が1928年に開発した装置がエッジワイズ装置で、水平方向に長方形の溝があるエッジワイズブラケットに適合するように断面が長方形のレクタンギュラーワイヤーを装着することで歯の三次元的位置のコントロールが可能となり、理想的な歯並びと嚙み合わせを獲得できる仕組みになっています。釘管装置はレクタンギュラーワイヤーの幅の広い面(フラットワイズ面)をブラケットの溝に向けて装着していましたが、幅の狭い面(エッジワイズ面)をブラケットの溝に向けて装着するため、エッジワイズ装置と呼ばれています。ちなみに、ブラケットの溝はブラケットスロットと呼ばれ、当初開発された0.022×0.028インチの他、現在、0.018×0.025インチを含めて世界で2種類しかありません。
ア.歯の3つの三次元的位置について
1.歯の唇(頬)舌的な位置
歯の表(唇、頬)側と裏(舌)側の位置のこと。
2.歯の近遠心(左右)的な傾斜
前歯では体の中心寄りと離れた側、小臼歯・大臼歯では手前側と奥側の傾斜のこと。
3.歯の唇(頬)舌的な傾斜
歯の表(唇、頬)側と裏(舌)側の傾斜のこと。
歯列に上記の1~3.の三次元的なコントロールが必要となった場合、術者がワイヤーを屈曲し、調整を行うという方法がスタンダードエッジワイズ法で、あらかじめ平均的な三次元の歯の位置を組み込んだブラケット(プリアジャステッドブラケット)を接着し、成型加工されたワイヤー(プリフォームワイヤー)を装着するストレートワイヤー法の2種類があります。1960年、Andrews L.F.により発表されたエッジワイズ法の発展型の一つであるストレートワイヤー法(SWA)は、それぞれの歯の平均的な三次元の位置的情報を組み込んだブラケットやチューブに、成型加工されたワイヤー(プリフォームワイヤー)を装着することで、ワイヤーの屈曲を必要最小限に抑えられるというのが特徴です。図の通り、スタンダードエッジワイズ法は上下左右それぞれの歯の三次元的な位置付けはワイヤーを屈曲することによりコントロールするのに対して、ストレートワイヤー法では、それぞれの歯により三次元的な位置が異なるため、歯の唇(頬)舌的な位置関係については、ブラケットの厚みを変えており、近遠心的な傾斜、頬舌的な傾斜については、それぞれの歯に適合した情報をブラケットやチューブごとにあらかじめ組み込んでいます。つまり、ブラケットごとにそれぞれの歯に合った正確な情報が組み込まれているため、術者に対し、ブラケットの歯への接着する位置(ブラケットポジショニング)の正確さと経験が要求されます。
イ.エッジワイズブラケットの種類について
1.唇側ブラケット矯正装置
メタルブラケット:ステンレススチール鋼材の他、様々な金属で製造されたブラケットによる装置
クリアブラケット:硬質プラスチックなど様々な材質で製造されたブラケットによる装置
2.舌側ブラケット矯正装置
歯の裏側に装着するため金属で製造されたメタルブラケットによる装置で目立たないというメリットがありますが、唇側ブラケット矯正装置よりも歯の三次元的位置のコントロールが難しく、術者にとって高度なテクニックが要求されます。
3.セルフライゲーティングブラケット
歯に接着したブラケットとアーチワイヤーは固定しなくては歯に矯正力が伝わらないため、ブラケットスロットに挿入したワイヤーはエラスティックモジュール(小さいゴムリング)や細いステンレススチール鋼材の結紮線(リガチャーワイヤー)でブラケットに組み込まれたブラケットウイング(結紮用突起)に結紮固定しますが、ブラケットとアーチワイヤー間で生じる摩擦を最小限に抑え、最小限の矯正力で歯の移動を可能にするという概念から開発されたブラケットで、ブラケットの構造上、ブラケットウイングはなく、蓋やシャッターの開閉によりアーチワイヤーの脱着を可能にする設計となっていて、結紮するタイプのブラケットよりサイズが大きめで、審美的にもデメリットがありますが、治療時間の短縮できるメリットもあります。唇側ブラケット矯正装置の他、舌側ブラケット矯正装置用のセルフライゲーティングブラケットがあります。
ウ.アーチワイヤーの種類について
矯正装置を装着したばかりの初期段階では、歯並びがガタガタな状態ですので、細いステンレススチール鋼材の他、屈曲できないデメリットがありますが、弱くて持続的な力を発揮できるという超弾性を特徴とするニッケルチタン合金の細くて、柔らかい断面が正円のラウンドワイヤーが向いています。その後、治療段階の中盤から終盤にかけては、太くて硬いワイヤーへ移行し、仕上がりの段階ではブラケットスロット幅に近いステンレススチール鋼材のレクタンギュラーワイヤーを装着し、歯の三次元的位置のコントロールを行います。
本日は、日常的臨床で用いておりますマルチブラケット装置についてお話ししました。各装置につきましては当院HPにも写真が掲載されていますので、ご参考下さい。