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「アルツハイマー型認知症の超早期発見」の重要性(前編)について

2019.07.03

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本日は、東京大学医学部附属病院神経内科岩田淳先生による「アルツハイマー型認知症」の最新情報(前編)についてお話をします。

 

2025年には65歳以上の高齢者が占める割合が5人に1人と言われており、高齢化が進むにつれて認知症患者も増加しています。

とりわけ、「アルツハイマー病」はその半数以上を占めており、増加傾向あるようです。

近年では、アルツハイマー病が発症する前段階「プレクリニカルアルツハイマー」という新しい概念が加わり、新薬の開発においても、発症前の段階へとシフトしているようです。

仮説ではありますが「アルツハイマー病」は、40~50歳代からが始まるアミロイドβの蓄積が原因とされていますが、自覚症状がないため、「アルツハイマー病」と診断されるのは、65歳以降が多く、認知機能の低下がある程度、進行している場合が多いようです。

ちなみに「アルツハイマー病」とは、症状の有無は問わず、脳にアミロイドβが蓄積しているという病態を指し、「アルツハイマー型認知症」とは、「アルツハイマー病」を原因とする認知症を発症している病態を指しているので両者を区別する必要があります。

現在、「アルツハイマー病」の病期については、まず認知機能が正常で発症前の状態である「プレクリニカルアルツハイマー病」、次に症状が出始めている状態である「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)」、そして「アルツハイマー型認知症」と進行状況により3つに分けられています。(図1)

糖尿病では、まずは自覚症状の見られないメタボリックシンドロームが「プレクリニカル期」、そして「糖尿病」へ、さらに進行すると、下肢切断、失明、人工透析、脳卒中などの「重篤な合併症」を引き起こすという経過をたどります。

このように病状が進んで「重篤な合併症」を併発した場合、健康な状態には戻れないため、糖尿病の場合は、合併症の併発前、アルツハイマー病の場合ではMCIという状態が健康な状態に回復できるデッドラインとなります。

また、アミロイドPETが導入されてまだ十数年、受診者は世界でわずか1万人程度ですが、脳の病理的変化を非侵襲的に直接、精度のよい画像で見られるようになったため、これまで困難であった「アルツハイマー病」の超早期発見が可能となったようです。

東京大学附属病院では、アミロイドPETを撮影したところ、認知機能テスト正常範囲で自覚症状がないものの50歳代の約1割、60歳代の約2割が陽性という結果になったようです。

陽性とは「キャリアー」を指すので、将来、必ず認知症になる訳ではなく、また別の病因で亡くなった場合、「認知症にはならなかった」ということになります。

ちなみに、将来、研究を行う上で、アミロイドβの蓄積の後、「タウ」が蓄積されるため、アミロイドPETに加え、タウPETを併用した画像解析が主流となるようです。

現在、わが国で認可を受けているアルツハイマー型認知症治療薬についてですが、病変自体の進行を抑制するものではなく、主症状を抑えるというものです。

「アルツハイマー病」の予防や根本的治療として有効とされているアミロイドβの除去を促進したり、産生を抑制することを主眼として、現在、新薬開発がなされているそうですが、アミロイドβが沈着した認知症では、既に神経細胞の破壊が進行していると推測されるため、アミロイドβの除去促進作用を有する「アミロイドβ抗体薬」の治験では、認知機能低下抑制に有効性があったものはないという結果が出ていることから、認知症の前段階であるMCIであれば、有効と考えられているようです。

また、「アミロイドβの産生阻害剤」の治験では、MCIとプレクリニカル期を対象にした研究が行われており、結果が待たれるところだそうです。

アミロイドβは加齢によっても蓄積しますが、正常な脳の場合、一定以上蓄積することはないそうですが、「アルツハイマー病」の場合、アミロイドβと産生と除去のアンバランスが生じていると推測できます。

そのアミロイドβが蓄積しやすい要因の一つとして、遺伝子変異が挙げられるようですが、日本人の約12%に見られる「アポリポE4型遺伝子」において、「アルツハイマー型認知症」と診断された約60%の患者には、この遺伝子が認められたという結果が出ているようです。

40~50歳代の時に「メタボリック症候群」ではなく、「運動習慣」があり、「喫煙習慣」のない人が、高齢者になってから認知症になりにくいという研究結果がでているものの、認知症を発症する前からの前向きコホート研究がほとんどないため、認知症にならないために気をつけることについては、分かっていないというのが現状だそうです。

しかし上述したことは、健康に良いという点では明確ですが、一つのことを遂行すれば安心ということではないので、脳トレを行ったり、様々なことを生活習慣に取り入れることが重要なのだそうです。

また、「アルツハイマー型認知症」において、徘徊などの周辺症状が顕著になると、介護が困難となるので、認知症の前段階であるMCIの段階で判明すれば、現時点ではMCIで適用できる治療薬はないものの、早期に介護の準備や家族教育が可能となるので、将来を見据えてMCIの段階で発見できる「アルツハイマー型認知症の超早期発見」の意義は大きいと言えるようです。

その家族教育は重要で、ご家族が認知症状を悪化させる要因になる場合があるからだそうです。

具体的に、認知症の初期段階では、患者さんを頭ごなしに怒ることで、混乱により暴力的になってしまい、その後の症状のコントロールが難しくなったり、進行するにつれ猜疑心が強くなるため、「財布を盗まれた」など暴言を吐くこともあるようですが、怒ったり、頭ごなしに否定せず、上手にかわすような対処法を身につけることが重要なのだそうです。

 

本日は、前編として「アルツハイマー型認知症」についての基礎、「プレクリニカルアルツハイマー」の重要性、治療薬などについて岩田先生の大変、興味深いお話させて頂きました。


「アルツハイマー型認知症の超早期発見」の重要性(前編)について